溶接を始めるには溶接機が必要です。しかし、どのような原理で溶接出来るか、どのような種類があるか即答出来る人はいないでしょう。偏に溶接機と言っても沢山の製品群が存在します。そこから最もコストパフォーマンスの良い、自分に合った製品を探し出すのは至難の業です。
ところで、皆さんは溶接にどのようなイメージを持っていますか?DIYで使えるとかっこいい。学校の授業でやった半田付けの延長。中には、溶接に危険なイメージを持っている人もいるかもしれません。実際、工場のガス溶接で過去に火傷や火災の事故も起きているそうです。扱うからには事故無く安全に利用したいですよね。
どのようにすれば自分に合った溶接機を探し出し、上手く扱えるのか。このページで学習し、万全の状態で溶接に臨みましょう。
溶接機を選ぶ前に、まずは何を溶接したいか考える必要があります。例えばアクセサリーを作りたい人と、バイクや大型家電の修理に使いたい人では、使用する溶接機は自ずと違うものになるでしょう。前者は薄板でも溶接出来るような、それでいて細かい作業のしやすい溶接機を選ぶはずです。後者はとにかく出力の高い溶接機を選ぶでしょう。大きいものを溶接するのに、繊細な操作性は不要かもしれません。
次に作業場所を考えます。テレビでよく見る工場のシーンをイメージすると、広い空間でひたすら溶接をやっていますよね。工場では板材の溶接を行うため、大きな空間が必要なのでしょう。作業場所は広いに越したことは無いですが、家庭用のDIYであれほど広い空間を用意する必要はありません。しかしながら、どれくらいの作業空間を取れるかは最初に考えておいた方が良いです。溶接では金属を溶かすほどの温度を扱うことになります。狭い空間、例えば室内などでは危険を伴うので止めておいた方が良いです。
後は作業性でしょうか。例えば仕事でひたすらアクセサリーを作らないといけないとします。この場合、連続して作業をしても疲れないような溶接機が合っているといえます。また、繰り返し作業をしても品質が一定に保たれることも重要です。一方、たまにしか使わない人、連続した作業が不要な人にとってはこれらの優先順位は低いです。とにかく安価で購入した方がメリットを感じられるかもしれません。
さて、それでは溶接機にはどのような種類があるのでしょうか?これにはまず溶接を説明する必要があります。溶接とは、何らかの方法で2個以上の金属を接合する事です。接合と言うと専門的ですが、要はくっつくという理解で構いません。そして、何らかの方法とは熱や圧力が該当します。熱や圧力によるエネルギーを与えて金属を一時的に溶かし、溶かされた金属が固まる過程で金属同士がくっついていきます。
溶接は溶かし方によって呼び名が異なります。ガスを使うガス溶接、レーザーを使うレーザー溶接、そして電気を使うアーク溶接です。家庭でも利用しやすいのはアーク溶接でしょうか。ガス溶接はアセチレンガス等を使用するのですが、ガスを使用するのは安全面で少し心配ですよね。資格も必要です。レーザー溶接に使う設備は、とても一般家庭で導入出来ないでしょう。ちょっと使ってみたい、という初心者の方には手軽に利用出来るアーク溶接機をおすすめします。
ガス溶接では熱源にガスを用いて溶接を行います。使うガスはアセチレンが多いようです。ガス溶接の際の火炎の温度は3000度程となっており、後に紹介するアーク溶接よりも温度が低く、薄板や融点の低い金属の溶接に適しているようです。また、アーク溶接よりも溶接時の光が小さいため、作業しやすいという利点もあります。
一方で、温度が低い上に、熱の集中も悪いため、作業効率が大変悪いです。上手く溶接出来ずに長時間火炎に晒していると、金属の変形が起きてしまいます。そのため、微細なコントロールが要求されます。また、ガス溶接は可燃性のガスを燃料とするため、爆発の危険性を伴います。アセチレンは400度ほどで発火するため、少し衝撃を与えるだけで爆発が起きる可能性があります。さらに、銅や銀を溶接する場合は注意が必要です。これらの金属はアセチレンと反応するため、爆発リスクが高まります。何よりも安全に作業をしたい初心者にとって、これらのリスクは避けたいところでしょう。
なお、ガス溶接を行うには講習を受ける必要があります。
レーザー溶接ではレーザー光線のエネルギーを使って溶接を行います。エネルギー密度が高いことに加えてコンピューターによる制御もしやすく、微細な加工が得意です。ガス溶接とは正反対に対象物の非溶接部へ熱を与えないため、熱による変形が起きにくいです。通常、シールドガスと呼ばれる不活性ガスを使用して溶接を行います。
レーザー溶接は専用の機械が必要で、工場などで自動溶接機として稼働します。
最後に、初心者の方におすすめのアーク溶接機です。アーク溶接機はその名が示す通り、アーク放電という現象を使います。これは、空気中に電流が流れる現象です。普段、空気中には電流が流れませんが、電極間の電位差により空気の絶縁状態が破壊されると、集中的に電流が流れるようです。このとき熱や光を伴うため、金属を溶かすことが可能となります。ちなみに、アークの温度は5000度以上もの高温となるそうです。
アーク放電を利用した溶接機には、消耗電極式溶接機と非消耗電極式溶接の2種類が存在します。消耗電極式は押し当てる電極が消耗して母材に溶けていく溶接方法です。一方、非消耗電極式では電極自体は溶けず、別途消耗剤を溶かして溶接します。ざっとまとめてみます。
消耗電極式溶接
非消耗電極式溶接
さて、これらの中で個人が購入するのに適した溶接機はどれでしょうか。導入が簡単なのは、被覆溶接機と半自動溶接機です。また、半自動溶接機の中でもシールドガスが不要なセルフシールドアーク溶接がおすすめです。勿論、アルミの加工をしたい、薄板もやりたい、などがあればそれに沿った溶接機を選ぶ必要があります。しかし、一般的にDIYで加工すると予想されるステンレス板であれば、この2タイプの溶接機で十分と言えるでしょう。
ここでは、あくまでも一例として5つほど溶接機を取り上げます。これまで学習したように、何の溶接に使うのか、作業場所は確保できるか、なども十分考慮して選んでいきましょう。
最初は海外の会社S. SIMDERが販売しているアーク溶接機です。家庭用コンセント100Vで使用出来ます。出力を上げたい場合は200Vも対応可能です。値段もお手頃価格です。デジタルで出力が表示されるため、どれくらいの出力でどれくらい溶けるか、初心者の方でも感覚を掴みやすいかもしれません。
ここからはスター電機製造の溶接機を紹介します。まずはBuddy80です。この溶接機は半自動溶接機です。ガスを使わないセルフシールドアーク溶接に該当します。仕様によると薄板(0.8mm)も溶接可能なので、細かいものをやりたい人に向いています。先端ノズルも見やすい構造を取っているため、扱いやすい製品と言えるでしょう。また、初心者の方に嬉しい機能として、トーチのスイッチがあります。スイッチを押すまで動作しないので、安全に利用できます。
こちらはネット限定モデルのSTK-80です。重量が軽く、かつコンパクトなので持ち運びに便利です。また、溶接初心者はアークが切れた際に溶接棒と母材がくっついてしまう事が多々あります。このSTK-80は溶接棒と母材のくっつきを防ぐような構造を取っているそうで、初心者でもストレスなく扱える製品となっています。リンク先では、溶接棒もセットで購入できます。
100Vの家庭用コンセントで使える。
超小型かつ軽量
溶接棒が対象物にくっつきにくい。
ノイズ対策実施品
STK-140の外観はSTK-80にそっくりです。ただし、こちらの製品は100Vだけでなく200Vも対応しています。その分出力も増えるため、より板厚が厚い材料でも加工できます。STK-80で不安な方は、こちらを試してみても良いかもしれません。リンク先では、溶接棒もセットで購入できます。
アイマックス60もSTKシリーズ同様、コンパクトかつ軽量です。こちらの製品は遮光面付きとなっているようで、少しだけお買い得と言えます。STKシリーズ同様に溶接棒と対象物のくっつきは対策されているようです。
溶接において溶接機が最も大事ですが、その他備品も用意しないと溶接作業を開始する事は出来ません。溶接作業に入る前に、必ず用意するようにしましょう。
溶接棒
被覆溶接機の場合、溶接棒が無いと始まりません。必ず購入するようにしましょう。使用方法は至って簡単で、被覆溶接機に溶接棒を挟み、対象物に当てるだけです。溶接棒の材料が対象物に溶けて固まるため、必ず材質を揃えるようにします。
溶接棒の種類には、100Vでも使用できる薄板対応可能な軟鋼低電圧用溶接棒、薄板から厚い板まで幅広く対応出来る一般軟鋼用溶接棒、ステンレスを溶接するのに使うステンレス用溶接棒、鋳物の補修に使う鋳物用溶接棒、などがあります。初心者の方は趣味で家庭用電源を使用する事が多いと思われるため、迷わず軟鋼低電圧用溶接棒を購入しましょう。
溶接棒の線径も考慮すべき項目です。太ければ太いほど大きい電流が必要ですが、薄板などに使うと対象物を壊してしまうかもしれません。細い線径のものは細かな作業がしやすいですが、一度に溶接が完了せず、何度も塗り直してしまう可能性があります。また、そうこうしているうちに対象物に熱が伝わり過ぎて、変形させてしまうかもしれません。必ず用途に合った線径のものを使うようにしましょう。
その他、溶接棒の被覆にはイルミナイト系、ライムチタニヤ系、高酸化チタン系、低水素系の4種類のタイプがあります。イルミナイト系はアークが集中しており、安定して作業が出来ます。水素を多く含んでいるため、厚板よりも薄板で効力を発揮します。ライムチタニヤ系は吸湿性が低いため、吸湿性が高い環境でも使用できます。高酸化チタン系は美しい外観を作りやすいですが、やや機械強度が劣ります。低水素系は水素が少なく、とにかく機械強度が良いです。イルミナイト系とは反対に、厚板の作業に向いていると言えます。ただし、水素が少ないためにアーク切れが起きやすく、作業難易度が高いようです。目的に合った被覆を選ぶようにしましょう。
溶接ワイヤ
溶接ワイヤーは半自動溶接機などで溶接棒の代わりに使います。こちらも溶接棒同様に、軟鋼用、ステンレス用と種類があります。また、アルミ用のワイヤーも売っています。当然ですが、ワイヤーの種類と対象物の母材の種類は同一になるようにします。
溶接ワイヤーは大きくソリッドワイヤーとフラックスワイヤーに分けられます。ソリッドワイヤーは特に何も被覆されていないもので、同一の材料からのみ作られています。大電流用、小電流用に分けられ、板材の厚みや用途で変えるようです。単一材料なので強度が良い反面、後述するフラックスワイヤーよりも外観性は劣ります。また、ソリッドワイヤーで溶接を行う場合は何らかのガスが必要だと思われます。
一方、フラックスワイヤーには溶接の作業性や外観性を上げるためにフラックスが含まれています。フラックスの種類により分けられ、スラグ系とメタル系と言うのがあるそうです。スラグとは溶接時に出る粉末で、スラグ系のワイヤーは溶接面からのスラグの剥離がよく、外観を美しく仕上げます。メタル系は鉄の粉末が主体となっており、丁度ソリッドワイヤーとスラグ系の良い所を取っているようなワイヤーです。さらに、溶接時に使うガスの種類により、ガスシールドアーク溶接用、セルフシールドアーク溶接用、エレクトロガスアーク溶接用に大別されます。
DIYで使用する初心者の方の場合、ガスが不要な溶接ワイヤーをおすすめします。種別としてはフラックスワイヤーのスラグ系に分類されます。セルフシールドアーク溶接用ワイヤー、ノンガスワイヤーなどの名称で販売されています。
手袋
忘れてならないのが溶接用手袋です。アーク溶接では火花や溶接時の飛沫が飛ぶため、手、腕の保護を目的に手袋をする必要があります。各メーカーより多くの品が出ていますが、基本的に耐熱仕様となっています。初心者の方は腕までカバーするタイプがおすすめです。
遮光面
遮光面も用意しましょう。アーク溶接では激しい閃光が発生します。また、溶接時の飛沫を防御する意味でも、必ず利用しましょう。手持ち式の溶接面の場合、片手で溶接機を作業しながら、もう片方の手で遮光面を持つことになります。なお、ものによっては溶接時のみ光に反射して自動遮光する製品もあるそうです。
溶接のやり方
色々と道具が揃ったところで、早速溶接にチャレンジしてみましょう。
準備
まずは作業場所の確保です。被覆溶接にしても半自動溶接にしても、スペースを確保できなければ何も始まりません。おすすめは見晴らしの良い駐車場やガレージです。この時、極力湿気の少ない所が良いそうです。室内は燃えるものが多く危険なので止めておきましょう。
作業場所が決まったら、次は対象物の周りをチェックしましょう。また、溶接機や対象物の周りには極力物を置かないようにして下さい。溶接機の火力は5000度以上です。不要に物が置いてあると、思わぬ火災や火傷の原因になり大変危険です。
溶接機と対象物の他に、遮光面、手袋、被覆溶接な溶接棒、半自動溶接なら溶接ワイヤーも一緒に準備しておきましょう。慌てて取り出すのは事故の元です。特に消耗剤である溶接棒や溶接ワイヤーは多めに買っておいた方が良いです。いざやっている最中にこれらが切れてしまうと、一旦作業が中断されてしまいます。
実施
準備が出来たところで、早速溶接をしていきます。と言っても、溶接自体は特殊な作業ではありません。詳しくは各社取扱説明書にも載っていますが、基本的には対象物を床に置き、溶接したい場所に溶接棒を当てていくだけの作業となります。アークが発生して溶接が完了したら、溶接棒を対象物から引き離します。対象物には金属の汚れ等があるため、ハンマーやブラシで落とします。
ところが、人によってどうしても出来栄えに差が出来てしまいます。アーク溶接は言わば職人芸のようなものです。学校の授業でよくやる半田ゴテも、人によって差がありましたよね。上手い人と下手な人で仕上がりは大きく変わってしまいます。どうすればこの差を埋めることが出来るのでしょうか?
ここは、何度もトライアンドエラーを重ねていくしかないのかもしれません。ポイントとしては出力電流があります。どれくらいの電流の時に対象物がどうなるか、正確に観察しておきましょう。例えば、出力が強すぎると対象部は溶けてしまいます。一方、出力が弱すぎると金属は溶けません。溶けたように見えても接合強度が弱く、大変危険です。
多くの練習をすれば、いずれ質の良い溶接技術を身に着けることが出来ます。長い道のりですが、少しずつ習得していきましょう。
DIYで一躍脚光を浴びた溶接ですが、本来は金属を接合するほどの温度を取り扱う、大変危険な作業です。まずは安全に作業できるように、十分な空間を確保してください。溶接機を含め、手袋、遮光面、溶接棒、溶接ワイヤーなどの準備も忘れず行ってください。 初心者にはアーク溶接機が最適と思われまずが、興味のある人は別の溶接機にチャレンジしてみても良いかもしれません。ただし、ガス溶接にしてもレーザー溶接にしても一般の方には少しハードルが高いと思われます。 今の時代、ウェブを使えば溶接機を簡単に購入出来ます。また、溶接方法やコツなどの情報もすぐに手に入ります。しかし、実際に訓練を重ねていくことでしか技量は上がりません。トライアンドエラーを繰り返し、溶接技術を少しずつ上げていきましょう。
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